2022年ー10月第4週
現在,時間の単位「秒」は,原子の振動数を基準とした「原子時計」により定義されています。しかし,原子時計の1000倍の精度を誇り,1秒ずれるのに300億年かかるほど正確な新しい時計「光格子時計」が発明され,いずれ秒の定義が変わるとされています。
光格子時計は,おおざっぱにいうとレーザー光の干渉によりストロンチウム原子を極小の空間に1個ずつ閉じ込め,原子同士が互いに影響を及ぼさないようにして,原子とレーザー光の共鳴周波数を精密にはかって時間を計測する時計です。
光格子時計のアイデアが提唱されたのは2001年ですが,その後実際に装置を作成・改良し,東京スカイツリーの上と下での時間差を計測して性能が確認されるなどの研究が進められており,このたび本田宗一郎氏が設立した本田財団による国際賞「本田賞」を受賞しました。
蛇紋岩。それは,地球内部のマントルを構成するかんらん岩が地上に現れるまでに水と接すると生まれる,緑がかった岩石です。岩石でありながら水を貯える性質があり,もっている水を放出するとかんらん岩に戻る特異な性質をもちます。
とはいえ,美しく輝く宝石や,さまざまに暮らしを支える鉱石などと比べると,地学ジャンルでも圧倒的に地味な存在の「蛇紋岩」。この蛇紋岩に特化したとんがった特別展が,10/29から埼玉県立自然の博物館で開催されます。特別展のタイトルはずばり,「The 蛇紋岩」。もし行くならば,ジオパーク秩父の一部である長瀞地域のジオサイトと合わせて訪れたいところです。
埼玉県立自然の博物館 特別展「The 蛇紋岩」 会期:2022年10月29日~2023年2月26日 定休日:月曜日(年末年始休館などあり) 観覧料:一般200円,大学生100円
なぜその発想に至ってしまったのか。ミニ四駆のタイヤに冷えピタを貼ってみた実験動画が話題です。実験をしたのは,工作系YouTuberのきすみ(@ksmhope/YouTube)さん。ミニ四駆がジャンプ台を飛ぶとバウンドし,再加速までにロスが出ることに着目し,「ジャンプ後も路面をしっかり掴むタイヤにすればロスが減ってタイムが向上するのでは」との仮説にもとづき,大胆にもミニ四駆のタイヤに冷えピタ(もちろん粘着面は外向き)を貼り付けました。
ご存じ冷えピタの粘着力 VS 着地の衝撃,果たして結果はいかに……!? 考えるまでもない,とオチが見えたあなた,ぜひ記事内の動画をご笑納あれ。
高知出身の作家・有川浩さんの小説「塩の街」は,塩に埋め尽くされて社会システムが崩壊しかけた東京が舞台ですが,その世界を彷彿とさせるような風景が高知の桂浜水族館に出現してしまいました。
白っぽい何かに埋め尽くされた水族館の通路などの写真がSNSにアップされたのは,9/19のこと。もちろん雪ではありません。これは,ちょうどその時日本列島に接近していた台風14号の強風に泡立てられた海水の泡が飛んできた,「波の花」と呼ばれる現象です。
「波の花」は,日本海側では冬の風物詩として有名な現象ですが,夏に,しかも高知で見られるのはかなり珍しいとのこと。小説のように人が塩になることはありませんが,ベタベタの泡が降り積もった敷地内の掃除はそれは大変だったそうです。
2022年ー10月第3週
今年6月,岐阜県の瑞浪市で河川清掃中に発見された骨が,既に絶滅した哺乳類「束柱類」の「パレオパラドキシア」の化石であることがわかりました。瑞浪市化石博物館が発見された骨の発掘調査を行ったところ,約1650万年前の地層から,首から腰までの背骨などがつながった非常に保存状態のよい化石が発掘されました。
パレオパラドキシアはサイやバクに近い仲間ですが,似た骨格をもつ現生生物がいないため,その生態等については謎が多い絶滅生物です。今回発見された化石は,102点の骨がほぼすべてつながったままで発見されたことから,食性や陸上での姿勢など,謎多きパレオパラドキシアの生態を解明する重要な手掛かりとなる可能性があります。
アジアでは,揚げ物を作る際に「熱した油に濡らした菜箸をつけて温度を測る」ということが広く行われていますが,意外にも,その現象を科学的に説明する研究はなされてきませんでした。
そこで,高感度のマイクと高速度カメラを用いて,湿らせた菜箸などを高温の油に入れたときの反応を記録したところ,油の中で生じた泡による空洞が非常に複雑な物理現象を引き起こし,条件によって泡の出方や生じる音響がさまざまに変化していることが分かりました。実験を行ったヂャオ・パン(Zhao Pan)教授は,「目と耳によるこのシンプルな測定は誤差約5~10%の範囲で正確。揚げ物をする際の通常の温度が150℃以上であることを考えると悪くない」と述べています。
10月12日に鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた小型ロケット「イプシロン」6号機は,打ち上げの途中で異常が発生したため,機体を破壊する信号が送られ,打ち上げは失敗。機体はフィリピンの東の海上に落下したと推定されています。
JAXAによると,打ち上げの途中で機体の姿勢が目標からずれ,地球の周回軌道に投入できないと判断したことから,打ち上げのおよそ6分半後に機体を破壊する信号を送ったとのことです。
イプシロンは需要の高まっている商業衛星の打ち上げに向けて開発が進められた小型ロケットで,これまで打ち上げられた1号機から5号機までは打ち上げに成功しており,今回の6号機で初めて商業衛星を搭載していました。今後,事故原因の究明が進められる予定です。
◆JAXAイプシロンロケットプロジェクト https://www.jaxa.jp/projects/r
これまで,CT検査などさまざまな病気の診断において,X線を吸収する「造影剤」と呼ばれる薬を血管内に注入し,体の組織と造影剤が流れる血管のX線吸収率の差を使う方法が多く行われてきました。
しかし,これからは全く新しい方法で,より細かい血管まで見ることが可能になるかもしれません。対象物に特殊な「光」を当てて,発生した「音」を処理・画像化するという光超音波イメージング技術の開発により,直径0.2mmほどの微細な血管まで,数分程度の短時間で画像化することが可能になりました。この技術を用いた「光超音波イメージング装置」が医療機器としての承認を取得したことから,近い将来,造影剤に過敏症をもつ人など,従来の検査が受けられない人も安心して血管の検査ができるようになるかもしれません。
2022年ー10月第2週
いよいよ今年もノーベル賞の季節となりました。理科の教科書を発行する出版社としては,理科に関する大きな話題……というだけでなく,教科書の内容を大急ぎで書き換える必要があるかどうか,かたずをのんで見守る時期でもあります。この時期だと,来春配本される教科書を変更するには,ちょっと厳しいタイミング。もうちょっと早い日程にならないかなあ,と,思っている編集者も多いかもしれません。
それはさておき,ノーベル賞は「人類に最大の貢献をもたらした人々」に贈られる賞。世界的な栄誉ある賞であり,賞金が1億円を超える大きな賞でもあります。全6分野のうち,特に生理学・医学賞,物理学賞,化学賞の3分野では,身近な生活を支えている科学技術の話題にスポットライトが当たることも多く,生徒の興味・関心を引き出すよいチャンスといえるでしょう。
◆ノーベル賞公式HP(英語) https://www.nobelprize.org/
2022年のノーベル生理学・医学賞は,ドイツのマックス・プランク研究所のスバンテ・ペーボ博士の「絶滅したヒト族のゲノムや人類の進化に関する発見」に贈られました。
ペーボ氏は,数万年前の化石に残された核DNAを高精度に解読する独自技術を開発。絶滅した古生物のゲノム研究の道を拓き,「古ゲノム学」という新しい学問分野を確立しました。
ペーボ氏の研究により,ホモ・サピエンスと絶滅したネアンデルタール人のつながりが明らかになりました。また,古人骨のDNAの解析から,かつてアジアなどにいた未知の人類「デニソワ人」を発見。人類の進化の過程を明らかにすることに大きく貢献しました。
なお,その後の研究で,現生人類の大半がネアンデルタール人かデニソワ人,またはその両方に由来するDNAを受け継いでいることが分かっており,病気に対する免疫の個人差などに影響していることが判明しています。数万年前に共に地球上を生きた隣人の痕跡が,私たちの体の中に今も確かに存在しているのです。
2022年のノーベル物理学賞は,「量子もつれ」という特殊な現象が実際に起きることを示したフランスのパリ・サクレー大学のアラン・アスペ教授,アメリカのクラウザー研究所のジョン・クラウザー博士,オーストリアのウィーン大学のアントン・ツァイリンガー教授に贈られました。
3氏が存在を証明した「量子もつれ」という現象は,かのアインシュタインをも悩ませた力学上の未解決問題でした。量子力学では,2つの物体を相互作用させることで,物理的な性質を相関させることができ,この相関関係は物体どうしを銀河の端と端に引き離したとしても保たれるとして,このような関係を「量子もつれ」と呼びました。互いに相関関係にあるだけであれば珍しくないのですが,「量子もつれ」の特殊なところは,「もつれ合った2つの物体の性質が,測定するまで具体的な値として存在しない」というところです。
アインシュタインは,物体の性質は客観的に存在し,人間はそれを測定していると考えていました。しかし,3氏の研究により,ミクロの世界において,「物体の性質は観測者が測ったときに初めて発生し,測る前には実在しない」ことが実証されました。これらの研究は,量子コンピュータなどの技術にも活かされています。
2022年のノーベル化学賞は,簡単な化学反応により多彩な機能を持つ分子を作る技術「クリックケミストリー」を開発・発展させたアメリカのスタンフォード大学のキャロリン・ベルトッツィ教授,デンマークのコペンハーゲン大学のモーテン・メルダル教授,アメリカのスクリプス研究所のバリー・シャープレス教授に贈られました。
「クリック」は,ベルトのバックルがカチッと音を立ててくっつくように,2つの分子が簡単に結合することに由来し,簡単な構造の化合物を使って,反応が迅速に起こり,不要な副産物をほとんど作らずに済む手法です。
ふつう,分子合成を行うには,ほかの反応が起きないよう工夫したり,生じる副生成物を精製したりしなくてはなりません。しかし,自然界に存在せず,互いに選択的に結合する「アジドとアルキンを結びつける反応(Huisgen環化)」を利用することで,2つの物質を簡単に,確実に結合させることに成功しました。この技術を改良・発展させることで,ほかの物質が大量に存在する生体内でも特異的な反応を起こすことができるようになり,がん患者向けの医薬品開発などに利用されています。
2022年ー10月第1週
「地球に小惑星が衝突し,人類が滅亡する」は,SF映画などでおなじみの題材です。映画では小惑星を爆破して解決することが多いのですが,実は爆破すると破片が広範囲に落下し,被害を拡大してしまうので,何かをぶつけて「軌道をずらす」のが,現実的な解決なのだとか。そしてそんな映画みたいなことを実際にやってみたNASAの「DART」計画が,日本時間の9/27に無事成功しました!
DART探査機は秒速6.1kmで宇宙を飛行し,地球に比較的近い小惑星のひとつ「ディディモス」の周囲を回る衛星「ディモルフォス」に衝突。探査機からリアルタイムで送られてくる映像とそれを見守る管制室の様子が,衝突の瞬間も含めライブ配信されました。
この衝突により,ディモルフォスの速度は1%ほど変化し,公転周期が約10分短くなるはずだと予測されています。
秋の味覚といえばサンマ。しかし,サンマは近年不漁が続き,価格も高騰しています。ならば,養殖して増やせないのでしょうか?
記事では日本で初めてサンマの繁殖に成功した「アクアマリンふくしま」の担当者に疑問をぶつけます。アクアマリンふくしまでは,通年でサンマを展示。水槽の中で最大8世代の累代飼育にも成功しています。
担当者によると,サンマは神経質で鱗や皮膚が傷つきやすく,温度や光にも敏感に反応します。また,胃がない魚なので,常に餌を与えていないと痩せて死んでしまいます。このように扱いが難しい上に売価が安いので,養殖が進まないのではとのこと。
何より,養殖するためには,まず自然界からサンマを捕獲する必要があります。まずは海に生息するサンマを守り,増やしていくことが大切なのでしょう。
ラーメン,カレー,みそ汁など,おいしいものは味も濃い。日本人はWHO(世界保健機関)が掲げる食塩摂取基準に対し,平均で約2倍もの食塩を摂取しています。そのため,塩分を控えた減塩食では,味に不満を感じることが多いようです。
今回発表されたスプーンとお椀は,そんな悩みに科学の力でアプローチした発明です。電源と制御用コンピュータの内蔵されたデバイスから,人体に影響しないごく微弱な電流を特殊な波形で流すことにより,脳が感じる食品の塩味を増強させます。実験では,減塩食の塩味を約1.5倍強く感じたという結果が出ているそうです。これを使えば,もし入院したときにも,薄味の病院食をおいしく感じられる,かも……?
古代日本で作られていた装身具に「勾玉」があります。勾玉には,ヒスイやメノウ,水晶など,モース硬度7程度のかなり硬い石を用いたものがよく知られています。そこで,疑問。「大昔の人は硬い石に一体どうやって穴をあけていたのか?」
この記事では,「濡らした竹ひごの先に石の粉を研磨剤として付け,両手で竹ひごをもむように回転させる」という方法で挑戦します。とりあえず石英(モース硬度7)を研磨剤として使うも,まったく歯が立たず。柘榴石(モース硬度6.5~7.5程度)の粉末に切り替えます。厚さ1センチの石(石英)に竹ひごを押し当て,ひたすら両手をすり合わせること,なんと20時間以上! 竹の棒でも穴があけられることを実証しました。なお,ダイヤモンドビットを使うと,手動でも8時間ほどで貫通したそうです。文明の力を感じます。
2022年ー9月第4週
秋です。「人々を笑わせ,それから考えさせる業績」に対して授与されるイグ・ノーベル賞の季節が今年もやってきました!
今年の受賞者は10名。「最初のデートでお互いに魅力的だと感じると,お互いの心拍数が同期する発見とその証明」「サソリの便秘は交尾行動に影響するか?」「アヒルの艦隊の力学的理解」「どうして法律文書は必要以上に理解しにくいかの分析」「化学療法を受ける患者の副作用をアイスクリームで軽くできるという発見」など,愉快なものから皮肉・下ネタまで,各分野のユニークな研究が並びます。ばかばかしさを演出することに無駄に全力投球している授賞式の各種演出や,「アイスを提供してくれた病院のカフェテリアに感謝します」などの受賞者のウィットに富んだ受け答えにも注目です!
◆授賞式の動画(日本語字幕付き) https://live.nicovideo.jp/
火山の噴火や核爆発の際に観測される「ラム波」という波は,大気の共鳴振動として知られていますが,1937年,ペケリス(Chaim Leib Pekeris)博士によって,理論上,ラム波よりも少し遅い波が存在しうることが提唱されました。しかしこの波はこれまで85年間,実在が確認されたことはない「幻の波」でした。
そして2022年1月,トンガのフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火が発生しました。この時の観測データを詳しく調べたところ,「ラム波よりも少し遅い共鳴の波」が発生していたことが確かめられました。研究成果をまとめた論文において「ペケリス波」と呼ぶことを提案されているこの波は,海面との共鳴により「気象津波」をもたらす可能性が示唆され,研究が今後の防災・減災に活かされることが期待されています。
地球の表面を覆う地殻には,薄い玄武岩でできた海洋地殻と,厚い花崗岩でできた大陸地殻の2種類があります。このように化学組成の異なる地殻をもつ地球は,岩石惑星でも特異な存在です。このような地殻が形成された謎について,チャレンジングな新説が発表されました。それは,「彗星の衝突が地球の大陸を作る原動力になった」というものです。
研究では,古い大陸地殻が固まった年代を特定し,そこに含まれる酸素の同位体比を調べたところ,太陽系が天の川銀河の中を波打ちながら移動する周期と,大陸地殻の酸素の同位体比率の変化の周期がほぼ一致することがわかりました。天の川銀河の中で,高密度に恒星が集まっている場所を太陽系が通過するときには,地球に彗星が落下しやすくなります。彗星の衝突によって形成された花崗岩が,のちに大陸地殻の「核」となった,と考えられるのです。
「サイボーグ」とは,生物と機械装置の結合体を意味する言葉です。SF映画などでよく登場するサイボーグはヒト型ですが,今回開発されたのは,「太陽電池で再充電でき,無線で行動を制御できる」という機能を持った昆虫型のサイボーグです。
研究で使われたのは,翅のない「マダガスカルゴキブリ」。体長約6センチほどのゴキブリの背中(胸部)に移動制御装置をバックパックのように背負わせ,腹部背側に極薄の太陽電池を接着して,完全放電したのちの再充電や,「右に曲がらせる」という移動の制御に成功しました。
サイボーグ昆虫は,昆虫型のロボットよりも省エネなこともあり,世界中で盛んに研究が行われています。将来的には,人間が入ることができない狭い隙間の探索が必要となる災害現場などへの応用が期待されています。
2022年ー9月第3週
スマホカメラで空気の流れが見えるアプリが開発され,話題を呼んでいます。アプリの名前は「air-visualizer」。温度の変化で空気の屈折率が変わることを利用し,密度の変化を可視化することで,空気の流れを映像としてとらえる仕組みです。デモ画像では,ドライヤーから出た空気の動きや,保冷剤で冷やされた空気が下降する様子など,肉眼では見えないものがくっきりと見てとれます。
現状は,「まだ実験的に作ってみた段階(開発者のkambaraさん談)」とのことで,GitHubでAndroidアプリのソースコード等が公開されているのみですが,「目に見えない世界を見えるようにしてくれる」面白さ,いつかアプリとしてリリースされることも期待したいです。
◆アプリのソースコード(GitHub) https://github.com/kambara/air
この夏,MidJourney,DreamStudio,AIピカソなど,AIによる画像生成技術を使ったさまざまなサービスが公開されました。多くの場合,web上の画像情報を学習したAIに,言葉で命令して画像を作らせる……のですが,いいかんじになることもあれば,「何をどう誤解すればそうなる!?」という結果になることも。
この記事は,そんなAIに思った通りの画像を描かせるための「呪文」を,魔術に例えて解説したもの。「ベクトルの方向を強く定義する力ある言葉(ルーン)の語彙力」と「再現性をもった呪文の組み立て」で,最強の詠唱呪文を手に入れましょう……! なお,記事の中にある「禁呪」ですが,MidJourneyの無料アカウントでは「作った画像はMidjourney内の全員に公開」なので,うっかり詠唱した場合のリスクはラピュタにおける「バルス」並み。決して試さないよう,くれぐれもご注意ください。
仏教の僧侶と研究者がタッグを組んで,AIブッダが悩みに回答してくれる対話型AIが開発されました。名付けて「ブッダボット」。
ブッダボットは,仏教への親しみをもってもらうことを目的に,現存する最古の仏教経典である「スッタニパータ」と,原始仏教経典の1つ「ダンマパダ」の一部など,合計1000パターンの回答を機械学習させて開発されました。質問に対し,学習したデータの中からAIが選んだ回答を返します。
学習元の経典は,もともとブッダが悩める弟子に対して教えを説いたもの。記事では,試しに「どうしたら幸せになれるか」とスマホ画面に浮かぶ仏像に聞くと,「怠けずに努力し,よく考えることで,本当の幸せが得られる」と,なかなかに徳の高いお返事が。
当面はイベント会場などでの限定公開ですが,いずれはアプリとしての公開も想定しているそうです。
社会科の資料集や博物館などでよく目にする「くずし字」。ほんの150年ほど前まで日常的に日本人が読み書きしていた日本語でありながら,今,ほとんどの人はくずし字を読むことができません。そのため,災害の記録や昔の生活の様子などの貴重な記録が活かされることなく,ときに破棄されてしまうことも。そこで,大量の古文書画像を学習させたAIを使った古文書解読アプリが開発されました。
すでに無料アプリ「みを」などが公開されている中,来春をめどに凸版印刷のアプリもリリースされる予定です。撮影OKな博物館で,ぜひお試しあれ。「みを」使用者からは,「春画の背景に書かれているくずし字の内容がかなりエロい」など,これまでになかった感想が出ているそうです。
2022年ー9月第2週
360°自由にぐるぐる動かせて,細かいところまでズームで拡大することができる高精細な3Dデジタル生物標本が1400点も一挙に公開されました。公開されたデータは,生鮮時のカラフルな状態で,魚などの水生生物を中心に,昆虫や植物など幅広い種類の生物が含まれています。公開されたデータのほとんどは,CC BY 4.0ライセンスのもと,誰でも自由にダウンロード・利用できます。
この驚異的なデータベース,なんとたった一人の研究者の手によって作成されています。九州大学の同僚の生物学者たちが口々に「変態」と讃える鹿野雄一特任准教授の凄技,ぜひ一度ご覧あれ。
◆3Dモデルの公開ページ https://sketchfab.com/
先日の「マツコの知らない世界」でも紹介されていた,ハザードマップのデータベースがこちら。土砂災害,津波,洪水など,さまざまなタイプのハザードマップ情報を,地図に重ねて表示することができます。
地震に関する学習で使うもよし,避難訓練などの前後に学校や自宅周辺,通学路のリスクを確認するもよし。地図上で動かしながら操作でき,リスクのある範囲に色がついてビジュアルに表示されるので,どのような場所にどんなリスクがあるかが簡単に一目でわかります。
今年3月には,中学校の修学旅行先で地震に遭遇し,宿泊先のホテルで避難した例もありました。秋の修学旅行シーズン,滞在先のリスク確認にも活躍しそうです。
「レッドデータブック」とは,絶滅の危機に瀕している野生動植物の名前を掲載し,その危機の現状を訴え,個体や生息地などの保護・保全活動に結びつけようという目的で出版される報告書です。日本全国版以外に,各都道府県版も発行されています。
このレッドデータブック,全国版・都道府県版の横断検索ができるサイトをご紹介します。種名や地域名,レッドデータブックのカテゴリなどで検索可能なので,自分の住んでいる地域や,興味のある生物,絶滅が最も危惧される生物などを調べることができます。調べてみると,自分の住んでいる地域では見かけることのある生物が,隣の件ではランク「絶滅」というケースもあります。少し調べてみるだけでも,生物への見方が変わる……かもしれません。
琵琶湖にくらすコイの背中に特殊なビデオカメラを装着して撮影した画像のアーカイブスです。なぜ琵琶湖,なぜコイ。
色とりどりのサンゴ礁など,カラフルな魚の映像が世に溢れている中,ほぼグレーと茶色の地味な画像ばかりが並ぶこのアーカイブス,実は琵琶湖にいるコイが2種類いるのでは? という疑問を解明するために始まりました。それぞれの画像をクリックすると表示される「カメラマン」ならぬ「カメラカープ」の画像を見ていくと,コイの違いも分かってきます。
コイたちは全員ビデオ撮影の素人。そして前後左右に加えて上下軸の動きが当たり前の生物です。手ブレのひどさはご愛敬。酔いやすい方,ご視聴時にはご注意ください。
◆コイ目線の映像公開ページ https://www.nies.go.jp/
2022年ー9月第1週
宇宙飛行士を火星に送るにあたって最も難しいことの1つは,火星から地球への帰還と言われています。帰りの燃料や,燃料の燃焼に必要な酸素は数十トンにもなるとされ,これらをすべて地球から持っていくとなると,大変な負担です。
でも,もしも目的地の火星で現地調達できるなら,有人探査はより簡単かつ安全で,安価になります。そこで,NASAは火星の大気の主成分である二酸化炭素を分解して酸素を取り出す装置「MOXIE」を開発し,火星探査機「Perseverance」に搭載して火星に送り込みました。
現在MOXIEは火星表面で稼働しており,予定していた「1時間に6gの酸素を生成する」という目標に達する機能を発揮していることが,8/31付で発表されました。これは小型犬の呼吸に必要な酸素と同等の量だとか。有人火星探査への重要なステップとして注目されています。
理科の実験でおなじみのボルタ電池やダニエル電池,生活の中で使う乾電池やリチウムイオン電池など,身近にある電池は,いずれも電解液を使うため,液漏れ,高温や低温に弱い,等のリスクが不可避でした。そういったリスクを抑えた新しい電池として期待されているのが,「全固体電池」です。
全固体電池は,固体のイオン伝導体を使うため,幅広い温度で使用できます。使用条件によってはほとんど劣化しないので,電池交換が困難な体内のペースメーカーや深海の調査機器などへの活用も期待されています。
一方で,全固体電池は量産化が非常に難しいという問題がありました。その量産化に,乾電池の製造で有名なマクセルが本格的に乗り出しました。2023年春を目標に,量産ラインを立ち上げ予定とのこと。新しい電池「全固体電池」が身近になる日も近いかもしれません。
植物に花が咲き,そこに蜜などを目当てにハチなどの動物がやってきて,植物の受粉を媒介する。このような仕組みは,最近まで,陸上にのみ存在すると考えられてきました。
しかし,近年,浅い海に生育するタートルグラス(Thalassia testudinum)の花粉がぜん虫や甲殻類によって運ばれている例や,潮だまりの紅藻類グラシラリア・グラシリス(Gracilaria gracilis)では,遊泳能力のない精子が,紅藻の粘液を食べにくるワラジムシの仲間によって運ばれている例が発見されました。
海草は陸上植物から進化した植物ですが,藻類は違います。一連の発見は,「送粉共生」が植物の誕生よりも早く生まれた可能性をも示唆しているのです。
アブラゼミを最高にかっこよく撮影する方法が,今,ネットで話題です。
話題になった写真は,黒い背景にアブラゼミの輪郭が青や緑,紫色で浮かび上がった,いわば「サイバーアブラゼミ」。生き物を中心に撮影する写真家・森久拓也さんがツイッターに投稿しました。
撮影方法は,「アブラゼミの標本を黒い背景の上に置いて,ブラックライト(紫外線を発するライト)を当てて撮影する」だそうです。これは「蛍光」のしくみを利用した撮影方法で,紫外線のエネルギーを吸収したセミの体が,自ら光を放っているのです。
夏休みは終わっても,窓の外から元気なセミの声が聞こえる今なら,まだ間に合います。記事の撮影方法を参照して,ぜひかっこいい「サイバーアブラゼミ」を撮影してみてください。
また,昆虫や鳥類は,ヒトと違って紫外線を「見る」ことができます。紫外線で撮影することで,彼らの見ている世界を垣間見ることができる,かも……!?
2022年ー7月第3週
地球上の望遠鏡で遠い宇宙を見ようとすると,どうしても大気などの影響を受けます。ハッブル宇宙望遠鏡は,宇宙からの観測を行えるという点で画期的でしたが,すでに打ち上げから30年以上経っています。そこで,ハッブルの後継機として,新型のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2021年に打ち上げられ,観測を開始していました。
そして7月12日,ウェッブ宇宙望遠鏡が観測した画像がついに公開されました。ハッブルの観測画像と比べてみると,より明るく,圧倒的な高精細画像で宇宙の姿が写し出されているのが分かります。画像や観測データからは,宇宙で最も遠い天体が撮影できた可能性など新発見も相次いでおり,今後どのような謎が解明されるか,期待がふくらみます。
アサリなどで身近な二枚貝では,貝殻の模様が化石として残ることがあります。今回,福井で発見された白亜紀の淡水二枚貝の化石には,2枚の貝殻がくっついた部分から放射状に伸びる筋状の模様と,同心円状の黒い帯のような模様が見られます。このような模様,お味噌汁のアサリでもよく見かけませんか? この化石から,二枚貝の色彩パターンがずっと変わっていない可能性が示唆されました。
なお,模様の残っている淡水二枚貝の化石は,世界で2例目,日本初。これまで見つかっていた化石の記録(中新世)を1億年以上さかのぼり,世界最古の「模様」の発見です。
7月5日の午後,激しい嵐に見舞われた後のサウスダコタ州東部で,空が緑色に染まるという不気味な現象が観測されました。記事にある画像を見ると,暗視ゴーグルを通したかのような,あらゆるものが緑色に染まる異様な風景が広がっています。
奇妙な現象の原因は,人為的なものではなく,自然現象。巨大な積乱雲に含まれる大量の水分が光を散乱させるので,雲を通した光は青色の光が多くなり,夕方近くなって太陽高度が下がったことで,雲の下から夕陽(赤色の光)が差し込んで,結果緑色に見えたのではないか,とのことです。
6月29日の深夜に観測されたひときわ明るい流れ星「火球」
◆Sonotacoネットワーク https://sonotaco.jp/
2022年ー7月第2週
「キイロネクイハムシ」という昆虫をご存じでしょうか。水の中に生える水生植物を食べ,一生を水の中で過ごす,体長4mmほどの小さな虫です。1962年の記録が最後で,すでに絶滅したと考えられていました。
しかしこのたび,琵琶湖周辺でキイロネクイハムシが60年ぶりに再発見されました。小さな虫なので発見者の加藤真教授も現地では気付かず,別の実験のために研究室に持ち帰った水草の中にいるのを発見したとのこと。系統分析により,アジアやヨーロッパの種とは明らかに異なり,中国の近縁種に近い種であることも分かりました。
系統分析を担当した曽田貞滋教授は,加藤教授とは学部時代からの同期であり友人で,加藤教授が「60年ぶりの大発見を『真っ先に自慢しに行きたい』と思える相手」だったそう。論文は二人の共著として発表されました。
宇宙ステーションに滞在した宇宙飛行士は,骨密度や筋力が低下するなど,無重力での生活による影響を受けます。月や火星も地球と比べてごく弱い重力しかもたないので,もしも人類が生活するようになった場合,低重力による健康への悪影響が心配されています。
そこで,月や火星への人類の移住を見据え,回転による遠心力で人工的に重力を生み出す「人工重力居住施設(ルナグラス・マーズグラス)」の研究がスタートしました。
ルナグラスの完成予想図や,「銀河鉄道」のように月面から宇宙へ飛び出す乗り物のイメージ画像になんとなく現実味があるのは,建設会社との共同研究ならでは。「電車で月旅行」の夢がふくらみます。
AI(人工知能)である「アルファ碁」が人間のトップ棋士に初勝利をおさめたのは,2016年のこと。そして「アルファ碁」を開発したディープマインド(DeepMind)社が次に狙いを定めたのは,かねてより挑みたいと考えていたタンパク質の立体構造の予測でした。
鎖状につながったアミノ酸が複雑に折りたたまれたタンパク質の構造は,従来ひとつひとつ実験で構造を確かめるしかありませんでした。しかし,ディープマインド社が開発したAI「アルファフォールド」は,アルファ碁などで培った深層学習が活用されており,従来は実験に1年ほどかかっていたものでも,約1時間程度で構造を予想できます。タンパク質の立体構造が簡便に予想できることにより,タンパク質の機能を解明する研究が加速することが期待されています。
「アルファフォールド」は2021年にオープンソース化され,だれでも使えるwebサイトが公開されています。実際のタンパク質のアミノ酸配列を入力し,どんな形になるのか試してみるのも楽しそうです。
元AKB48でタレントの板野友美さんがアニサキスによる食中毒にかかったと報じられるなど,毎年多くの人が苦しめられる,嫌われ者の寄生虫「アニサキス」。そんなアニサキスに「スーツを仕立てるように」,薄く柔らかい膜でコーティングすることで,がん細胞を攻撃するという研究が発表されました。
開発された“スーツ”の膜の中に,がん細胞を攻撃する過酸化水素を作り出す酵素を仕込んだところ,アニサキスは“スーツ”をまとったまま動き回り,培養液中のがん細胞を死滅させることに成功したそうです。
記事では,実験に使うアニサキスを入手するために,スーパーで買ってきたサバを2年間で100匹弱ほどもさばいたとのことで,きっと先生も学生さんもサバを食べ飽きただろうなあ……と,地道な研究の苦労もしのばれます。
2022年ー7月第1週
6月29日未明,関東や関西などの広い範囲で,「火球」と呼ばれるひときわ明るい流れ星が観測されました。火球をとらえた映像には,衝撃波による爆発するような音が記録されているものも。今回の火球は関東平野に向かって落下したとみられています。
もしも空気中で燃え尽きていなければ,隕石として地上に落下している可能性もあります。流れ星の向かった先で,普段石などない場所(ビルの上など)に黒っぽい石が落ちていたら,ビニル袋ごしに拾って密封し,最寄りの科学館などにお知らせください。過去にはマンションの廊下で隕石が発見されたという事例もあります。
「細菌」と聞くと,単細胞で単純で小さな生物を思い浮かべるでしょう。しかし,今回発見された細菌は,さまざまな意味でそのイメージをくつがえすものでした。
カリブ海のマングローブ林で発見されたチオマルガリータ・マグニフィカ(Thiomargarita magnifica)は,典型的な細菌の1000倍以上の大きさで,最大2cmほど。なんと肉眼ではっきり糸状の体が見えるのです。人間に例えるなら,エベレストくらいの身長の巨人のようなもの。この巨大な体は,たった1つの細胞からなります。しかし,単細胞でありながら,膜で区切られた区画にDNAを収納するなど,細胞の中は複雑に分化しています。これは従来の「原核生物」の定義をも覆すものです。
リグニンは,植物の細胞壁などに多く含まれ,セルロースやヘミセルロースを固めて植物の体を支える重要な役割をはたす物質です。落ち葉が水中で腐ると葉脈だけが残るように,リグニンの沈着した細胞壁は,なかなか分解されません。
このリグニンを分解する酵素をもつのが,白色腐朽菌と呼ばれるきのこのなかまです。さまざまなきのこのゲノムを調べたところ,担子菌類の一部がリグニンを分解する能力を獲得した時期と,石炭紀が終わりペルム紀へと移行する時期が,ほぼ一致することが分かりました。
はるか昔,分解されずに堆積した植物が石炭となったといわれていますが,現在の地球上で新たに石炭がつくられることがないのは,きのこが植物のリグニンを分解する能力を身に着けたから,という,興味深い研究です。以前から同様の考えは出されていましたが,今回遺伝子からもそれが支持されました。
高温多湿な日本の夏に食品を安全に運搬するとき,丈夫なプラスチックは大活躍です。しかし,丈夫ゆえに分解されにくいプラスチックによる環境汚染が大きな問題となっています。ところが最近になって,「世界中の微生物がプラスチックを食べるように進化している」可能性が示されました。
スウェーデンの研究チームが世界中の土壌や海水中の合計169ヶ所から集めたサンプルからは,プラスチックを分解する酵素が合計で3万種以上も発見され,特にプラスチック汚染がひどいエリアではより多くの酵素が存在することが報告されています。
難分解性のリグニンがきのこによって完全分解されるようになったのと同様,いずれ人間の作り出したプラスチックを完全に分解する生物が進化するのかもしれません。そうなったとき,コンビニおにぎりを安全に持ち運ぶには,今よりちょっと注意が必要になるのでしょうか?
2022年ー6月第5週
2022.6.26「惑星揃い踏み(曜日揃い踏み)」
6/26日(日)の日の出前の東〜南の空に,左から水星・金星・月・火星・木星・土星が見られました(範囲が広く,南の空と東の空の露出がかなり違うので,3枚の写真を合成)。土星だけ並びからずれているように見えますが,木星と土星の間に真南があり,それより西側(右側)では高度が下がって見えますので,いずれも太陽系の公転軌道面の断面という一つの大円上にあります。
しかも.太陽からの距離の順番と同じように,水星・金星・月・火星・木星・土星の順に一度に見えるという貴重な機会でした。また,東(左下)の薄明を太陽からの光と考えると,この時には,一週間の曜日(日月火水木金土)の光が揃って見えたことにもなります。
月は毎日大きく動きますし,水星は太陽に近くて見えにくいですが,それ以外の4惑星はしばらく明け方に並んで見えていますので,観察・撮影してみましょう。
卵で育つ動物では,母体とつながる必要はないので,当然おへそもありません。しかしつい先日,約1億3000万年前の白亜紀前期に生きたプシッタコサウルス(Psittacosaurus)という恐竜の化石に「おへその跡」があったという論文が発表されました。
おへそといっても,私たち哺乳類のような丸いものではなく,細長い縦線のような形です。これは正確には「臍孔(さいこう)」といって,カメの赤ちゃんやヒヨコなどが孵化したばかりの時にお腹にくっつけている栄養がつまった袋(卵黄嚢)がつながっていた所の跡です。爬虫類では普通,臍孔は成長とともに消えてしまうのですが,まれに臍孔が残ったまま大人になる場合があるとのこと。このプシッタコサウルスも,そんな個体だったのかもしれません。史上初の「恐竜のおへそ」,ぜひ記事で写真も確かめてみてください。
「きみ自身や大切な人を,ロボットでよみがえらせたい?」
こんなどきりとするような言葉で,ロボットを通し「人間とはなにか?」を問いかける特別展が,日本科学未来館で開催中です。
世界初の人型ロボットや,AIBOやASIMOなどのおなじみのロボット,人の機能を拡張するような「身に着ける」ロボット,開発者と瓜二つのアンドロイド「ジェミノイド」,亡くなった人を蘇らせた「漱石アンドロイド」など,約130点が集まっています。
「ロボット」という言葉が生まれて100年以上。私たちはロボットに何を託し,どんな未来を作りたいのか。ロボットを見ているとなぜか「自分とは,人間とは何だろう?」と,その向こうに人間が見えてくる……かもしれません。展示は8月31日まで。
ベランダのネットによじ登る1匹のアリ。ふいにもがくような動作とともに,その背からキラキラと透明な翅が落ちていく――。30秒ほどの動画がSNSで話題になっています。
動画を撮影したのは,シルバーアクセサリー作家のマッツォさん。結婚飛行を終えた女王アリだと気づき,とっさにスマホを向けたそうです。専門家に確認したところ,動画の「彼女」は,クサアリのなかまだろうということが分かりました。クサアリはゼロから巣を作るのではなく,女王が単身で他のアリの巣に忍び込んで巣を乗っ取る「社会寄生」をするアリです。ただし,乗っ取りの成功率はかなり低いと考えられているとのこと。
ウエディングドレスを脱ぐよう,とも重ねたくなる美しい動画ですが,生き抜くだけでも厳しい世界への第一歩と思うと,また違って見えてくるかもしれません。
松ぼっくり,といえば,マツのなかまの球果の愛称。拾って遊んだり,何か作ったりした方も多いでしょう。では,松ぼっくりがロシアなどで食べられていることはご存じでしょうか?
食べられているのは,あの茶色く固いものではなく,1~3センチ程度のまだ開いていない小さいものをジャムにしたものだそう。そこで今回は「実際に松ぼっくりジャムを作って食べてみた」記事を紹介します。できあがったジャムの感想は「口に入れると,脳裏にホームセンターの木材コーナーが広がる」。……まあ,想像通りの味のようです。しかし最後,予想外の美味しい食べ方が発見されます。
松ぼっくりジャムの丁寧なレシピも紹介されているので,「松ぼっくりジャム」を実際に試したい方にもおすすめです。6月末,まだギリギリ間に合う季節だと思います。
2022年ー6月第4週
普段は意識することのない「気圧」。しかし,地上のあらゆる場所で逃れることのできない気圧は,時に大変な事態をもたらします。
2017年7月にTwitter上に投稿されたつぶやきも,そんな悲劇のひとつでした。なんと,標高2150メートルで熱湯入りの保温ボトル(ステンレス製)の蓋をしっかり閉め,そのまま山を下りてしまったというのです! 事態に気が付いたのは標高10メートルの自宅。標高差が大きい上に,時間経過で中の温度が下がっているため,蓋はびくとも動きません。さあ,どうする?
さまざまな珍案・奇案の中から,つぶやきの投稿者さんが取った手段は「ボトルをあたためる」でした。なんとか開けることには成功したものの,保温ボトルで熱が十分に伝わらなかったためか,圧力に耐えきれず蓋が壊れたそうです。気圧の大きさを実感しますね。
野鳥の子育ての時期になり,メディアでも愛らしい野鳥の親子が取り上げられています。親鳥の後をふわふわのひなが何羽もついて歩くマガモやカルガモは,特に人気の話題です。しかし,今回撮影された動画に,専門家から待ったがかかりました。
問題の動画は,福山市で撮影された「カモの親子」。一見するとマガモのようですが,実は家禽の「アヒル」の品種のひとつ「アイガモ」と「野生のマガモ」が交配して生まれた,「雑種のアヒル」だったのです。
本来ならば自然界にあるべきではない「雑種のアヒル」。同様の個体は,福山だけでなく,各地で報告されているそうです。ほほえましい親子の光景……と報じるだけではすまされない問題をはらんだ映像です。
島根県宍道湖のほとりにある石像が,だれも知らない間に移動していたと話題になっています。石像は,重さ2トンほどと推定される,亀の形のもの。気づいたらあの場所に動いていたと,近隣住民も不思議がっています。
実際に2019年に撮影された画像と比べてみると,湖畔にあった石像が,2022年には2メートルほど後方に移動していることが確認できます。引きずったような跡があるものの,人の力ではとても動きません。管理を担当する松江市の担当者も首を傾げるこの現象,実は物理的に説明ができるのですが,何だと思いますか? ヒントは「水」「波」「周期」。解答は記事を最後までご覧ください。
見た目はふつうの雷雲とそっくりなのに,「ガンマ線」という目には見えないビームを地上に向けて放っている,そんな不思議な雷雲があります。ふつうの雷雲と少し異なるこの雷雲は「ガンモGAMMO」と呼ばれています。
ガンモの謎に迫るには,見た目で区別できないたくさんの雷雲を観測し,ガンモとそれ以外の雷雲の何が違うのかを調べる必要があります。そこで,冬の雷が多いことで有名な金沢市で,市民サポーターが自宅にガンモの検出器を置いて観測を行う「雷雲プロジェクト」が行われています。
この「雷雲プロジェクト」について,7/9(土)13:00~ 講演会が行われます。第一部はzoomでも参加可能です。参加費は無料,申し込みは7/8まで(定員になり次第締め切り)。ふるってご参加ください。
2022年ー6月第3週
鉛筆と言えば筆記具の定番ですが,都度削らなくてはいけない手間もあり,中学校入学とともに鉛筆からシャーペンに切り替えた人も少なくないのではないでしょうか。そんな中で,「削らずに16km書き続けられる」ニュータイプの鉛筆が登場しました。
商品名は「metacil(メタシル)」。「金属鉛筆」の一種ですが,芯にふくまれる黒鉛と特殊な合金のバランスなどを徹底追及。金属鉛筆のデメリットを克服し,書きやすく消しゴムで消しやすく,圧倒的に長持ちするという特徴を実現しました。「触れると金属なのに,鉛筆のように書ける」という不思議,ちょっと試してみたくなります。
ペンなどの文字を消す道具としておなじみの「修正液」について,SNS上で囁かれている噂があります。それは「長年使い続けているが,液切れしない。実は自然に湧き出ているのではないか?」というもの。中には10~20年間替えずに使っているという証言も飛び出しています。
この記事では,修正液のメーカー「ぺんてる」の担当者に,噂の真偽について直撃しています。「無限に湧いてくる説」「長く使い続ける秘訣」「コスパが良すぎるが売り上げは大丈夫か」など,くすりと笑える内容です。ペン立てや引き出しの中の修正液が,少しいとおしくなるかもしれません。
「書いた文字を消せるボールペン」として2007年に発売された「フリクション」。今やコンビニなどでも普通に売っている便利な大人気商品ですが,摩擦熱で色が消えるというしくみのため「うっかり車内に置き忘れた手帳のメモが消えてしまった!」「紙の近くにホットの飲み物を置いていたら,書き込んだ赤字がいつの間にか消えていた……」などという悲しい事故もたびたび発生しています。
この消えてしまった文字,冷凍庫に入れておくと復活するのはご存じでしょうか。どのくらいの時間で戻る? ラミネートして空気を遮断しても復活する? 複数回復活する? など,素朴な疑問を試してみた記事です。
消しゴムでこすれば,鉛筆書きの文字が消える。当たり前のことですが,どのような仕組みなのか,改めて説明できるでしょうか?
鉛筆書きの文字は,黒鉛(鉛筆の芯の素材)の粒が紙の上に付着しています。消しゴムを文字に触れさせると,消しゴムに黒鉛の粒が付着します。消しゴムを動かすと,表面が削れてくっついた黒鉛ごと消しカスとなり,現れた消しゴムのきれいな面にはまた黒鉛が付着します。この繰り返しで文字が消えるのです。
なお,最近流通している消しゴムのほとんどはプラスチック(塩化ビニル)に可塑剤を混ぜたものです。「黒鉛に似た構造の可塑剤が,分子間力で黒鉛分子を引き付ける」というしくみを利用して,ゴム製の消しゴムより文字が消えやすくなっているそうです。
2022年ー6月第2週
「シジュウカラは言葉でコミュニケーションをしている」。ほんの10年ほど前には誰も知らなかったこの事実は,今やテレビ番組などでも取り上げられ,多くの人に知られることとなりました。
シジュウカラの鳴き声が言語であることを発見したのは,研究者の鈴木俊貴さん。鳴き声が単に意味を示す音ではなく,語順,つまり文法があることや,さらにルー大柴さんの「ルー語」を応用した研究など,「疑問を解決するには,どのようなアプローチをすれば有効なのか?」が目から鱗の記事です。
同じ長さなのに違う長さに見える矢印など,「目の錯覚」を起こさせる図形は数多く知られています。そして,今回新たに「膨張する穴(expanding hole)」と呼ばれる新しい錯視図形が発見されました。記事の中にある画像はドット柄の背景の中央に黒い大きな丸がある静止画ですが,見つめているこの黒い丸が次第に大きく,近づいてくるように動いて見えます。
この錯視は約86%の人に起こり,またその際に瞳孔が無意識に開いていることも確認されました。一方で,この錯視を起こさない人もわずかながらいるとのこと。あなたには「膨張する穴」は動いて見えるでしょうか?
5月末以降,長野県や関東など各地で激しい降ひょうが発生しています。中にはピンポン玉ほどの大きさのひょうも確認されており,農作物や建物などへの被害も発生しています。この「ひょう」,同じく氷が降ってくる現象である「あられ」と何が違うか,ご存じでしょうか。
記事によると,氷の粒の直径が2mm~5mmのものを「あられ」,直径5mm以上のものを「ひょう」と気象用語では使い分けているとのこと。また,ひょうは積乱雲の中で育った氷の粒なので,夏などあたたかい季節に多く,たいていの場合に雷を伴います。氷どうしが雲の中でぶつかることで雷のもととなるエネルギーが生まれるという説もある……など,ひょうについてちょっと詳しくなれる記事です。
北海道大学総合博物館の小林快次教授などの研究グループが,22年前に北海道で発見されていた恐竜化石が,新種の恐竜であるとわかったと発表しました。この恐竜化石は,指先の骨の形状などの特徴から,テリジノサウルス類の新種であることがわかり,「日本の海岸にすむテリジノサウルス」を意味する Paralitherizinosaurus japonicus (パラリテリジノサウルス・ジャポニクス)と命名されました。
復元画像は,近年の恐竜研究を反映してふわふわの羽毛に覆われ,ゲーム等でも人気のテリジノサウルスと似た大きなかぎ爪のある手をもつ姿です。白亜紀には,このような恐竜が日本の海岸を闊歩していたのかもしれません。
2022年ー6月第1週
2022.5.30「4惑星が一直線&木星と火星の大接近」
一般に市販されている「わらび餅」はサツマイモでんぷんなどから作られていますが,もともとの「わらび餅」はワラビでんぷん100%。ならば,ワラビからでんぷんを取れば,本物の「わらび餅」が作れるのでは!?
そこで,でんぷんが蓄えられる冬を待って掘ってみると,ワラビの地下部(根茎)は思っていた以上に「根っこ」。でんぷんが蓄えられると聞いてイメージする芋的な部分は掘っても掘っても見つからず,「昔の人はよくこれからでんぷんを採ろうと思ったな」と感じるような,太さ1センチ程度の根っこばかりを山盛り持ち帰ります。果たしてこの根っこの山から「本物のわらび餅」はできるのか? 歩留まりは? 普通のでんぷんとの味の差は? 「やってみたからこそ分かる」が詰まった記事です。
「あまづら(甘葛)」は,平安時代頃までの日本で,貴族などが口にしていた甘味料です。砂糖の普及とともに忘れ去られていたこの古代の甘味料を,実際に再現してみた記録を紹介します。
「あまづら」の原料は,「みせん」と呼ばれるツタの樹液。これを集め,煮詰めて糖度を高めたものが「あまづら」です。樹液の糖度が増す冬に,人海戦術でツタを集め,人海戦術で樹液を取り出し……。「言ってみれば人件費がタダ同然だった時代に,過大なほどの労力を費やして作られたもの」と最後にあるように,できあがるまでの道のりは果てしないものの,特別な技術や設備はいらないそうです。「あまづら」を作るのは無理でも,樹液の味くらいは試してみたい……かも!?
「ねこじゃらし」でおなじみのイネ科雑草,エノコログサ。この草の実を炒るとポップコーンのように弾けてふくらむ……と,物の本には書いてあります。本当に? 試してみよう! という動画です。
九州大学の大学院と九州オープンユニバーシティが運営するチャンネルなだけあって,インドネシアの「箕」など,やたらと気合の入った本気の装備でエノコログサに挑みます。が,数人がかりで採れた実はひとつまみほど。果たしてねこじゃらしポップコーンはできるのか? そして気になるお味は? 動画を参考に,真似をしてみるのも楽しそうです。
「長期間保存したジャガイモは,でんぷんが糖化して甘みが増します」というジャガイモの商品説明を聞いて,「なるほど,ならば長期保存したジャガイモはデンプンの含有量が減っているのでは!?」と思いつく,その理科的なセンスが素敵です。
この記事では,保存状態の異なるジャガイモや,さまざまな品種のジャガイモから片栗粉を作り,できた片栗粉の量を比較することで「イモの味わい」と「でんぷん含量」の関連を調べています。果たして長期保存したジャガイモのでんぷんは減っているのか? ホクホクの男爵芋とメークインではどちらが多くでんぷんを含んでいるのか? 予想しながら楽しめる記事です。
2022年ー5月第4週
2022.5.18「ガリレオ衛星」
今の時期は日の出前の東の空に木星が見られます.ガリレオが低倍率の望遠鏡で観察して,地球を回らない天体があることを初めて発見し,地動説の根拠の1つとした4つのガリレオ衛星(イオ(I)・エウロパ(E)・ガニメデ(G)・カリスト(C))も天体望遠鏡や一眼レフカメラを使わなくても撮影できます.この写真はコンパクトデジカメで,最大倍率にしてISO 1600・f6.9・0.5sで撮影しました.
任意の日時のガリレオ衛星の位置は下記のHPで調べられます.これから秋にかけて観察しやすくなりますので,好きな配置になる日時を調べて観察・撮影してみましょう.また,余裕があれば,数日かけて公転している様子を観測・撮影して,400年前のガリレオの観察を追体験してみましょう.
もしも将来人類が月に住むようになったとしたら,月の土で農作物を作ることは可能なのか? という疑問に対し,このたび月の土で植物を育てる実験が行われました。
月の表面の土は,小さな隕石が絶えず衝突して細かく砕けたチリ状の物質で,「レゴリス」と呼ばれています。地球上の土と比べると,レゴリスは有機物を含まず,含まれている物質の組成も状態も異なります。
アポロ計画で持ち帰られたレゴリスと,レゴリスを模して造られた人工の模擬土を用いてアブラナ科のシロイヌナズナを育てたところ,発芽には問題がなかったものの,本物のレゴリスで育てた植物には特に重度のストレス反応が起こっていたことが分かりました。月の土で地球の植物を育てるのは,なかなか難しいのかもしれません。
カブトムシの幼虫は,一見すると土の中で穴を掘るのに適しているとはいえない姿をしています。ずんぐり太く,先端部が丸く,細く短い脚しかもたない幼虫は,どのようにして地面を掘り進むのでしょうか。
そこで,地中を疑似的に再現した装置に幼虫を入れて観察したところ,柔らかい土ではミミズのような蠕動運動で進み,固い土では「連続的にでんぐり返りをする」ような回転運動によって進むという,予想外の結果が判明しました。土木分野などでの活用につながる可能性もありますが,研究チームは「それよりも,多くのカブトムシファンの子供たちが,より,生き物に興味を持ち,しかも,自分でも面白い発見ができるかもしれない,と希望を持つことの価値の方が,はるかに高いと思います」とコメントしています。
アメリカのウェストバージニア大学のグループが非破壊的な方法で岩塩を調査したところ,岩塩の中に古代の生物らしき有機物の反応を発見しました。
有機物が発見された岩塩は,少量の液体を閉じ込めたまま結晶となっていました。この液体の中に発見された有機物の大きさ・形状や,紫外線を当てたときの蛍光反応を調べたところ,一部の有機物について原核生物や真核生物の細胞と特徴が一致することが分かりました。サンプルの岩塩の中には8億3000万年前のものもあり,岩塩の中にまだ生きている古代の微生物がいる可能性もあるとのことです。
約300年前,西日本生まれの松尾芭蕉は,初めて訪れる東北の景観を句に詠み,『奥の細道』につづりました。芭蕉が生まれた地(現在の三重県伊賀上野)は,地質学的にみれば日本列島が大陸の一部だった頃にすでに形成されていた古い花崗岩質の岩石や変成岩類からなります。そして『奥の細道』で芭蕉が旅したルートの大半は,およそ1,500万年前にはまだ海で,その後じょじょに陸になっていった「新しい」大地です。
このように「閑さや岩にしみ入る蝉の声」の句は,多孔質な火山性の岩石に囲まれた空間の音のくぐもりを鋭敏にとらえたもの,プレートの沈み込みにより隆起した山地と河川による浸食の結果生まれた激流が「五月雨を集めて早し最上川」の句につながる…と,地質学のメガネを通して読み解く『奥の細道』。タイトルのリンクからぜひ全文を読んでいただきたい記事です。
2022年ー5月第3週
太陽系が属する天の川銀河にあるブラックホールの姿を撮影することに,国立天文台などが参加する国際研究プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」が成功しました。チームは2019年にも別の銀河のブラックホール撮影に成功しており,今回は2例目となります。
今回撮影された天体は,天の川銀河の中心天体です。これまでその性質から巨大なブラックホールだろうと考えられてきましたが,今回の撮影でブラックホールであることが決定的となりました。地球に最も近いブラックホールであり,私たちのいる天の川銀河の形成に何らかの役割を担っていると考えられます。
この撮影に関する研究結果は,合計10本の論文として発表されました(プレスリリース内に論文へのリンク有)。
巨大な翼竜のような古代の大型飛行生物がどのように飛んでいたのか,そもそも飛べたのかには,さまざまな説があります。このたび,現生の大型鳥類の飛び方を参考に,航空力学を用いて絶滅した生物の飛び方を探る研究が行われました。
現生の大型鳥類の多くは,風や気流を翼で受けて滑空する「ソアリング」という飛び方をします。そこで,古代の大型鳥類と大型の翼竜について,その形態からソアリングに適しているかを調べたところ,プテラノドンや史上最大の鳥類・アルゲンタヴィスなどは,現生のワシやコンドルのように上昇気流に乗って回転する飛び方に適していることが分かりました。また,そもそも飛べたのかについて議論がある巨大な翼竜・ケツァルコアトルスについては,ほとんど飛ばずに地上を歩いていた可能性が高いと結論付けられています。
NHKの自然番組「ダーウィンが来た!」で撮影されたトビウオの映像が,最も長く飛行したトビウオの記録としてギネス世界記録に認定されました。その飛行時間,なんと45秒! 撮影したカメラマンは「あまりにも長く飛ぶので当時は間違えて鳥を撮ってしまったのかと思うほどだった」と話したそうです。
記事内の映像を見ると,本当に鳥のよう…むしろ,魚なのに公園のハトより長時間飛んでいる気すらします。時折飛ぶ方向を変えたり,失速しかけると尾びれの先で海面をたたいて再加速したりと,その飛び方も興味深い映像です。
アルミニウムはリサイクル率が高いとされている金属ですが,実は一般に使われているアルミ製品はシリコンや銅などを含んでいるため,再生を繰り返すと次第に不純物の割合が増えて品質が低下し,用途が限られてしまうという問題がありました。
このたび,東北大などの研究チームが,不純物の多いアルミニウムから高純度のアルミニウムをリサイクルする方法を確立しました。不純物の多い廃アルミと純粋なアルミニウムをそれぞれ電極として電気分解することにより,アルミニウムの鉱石からアルミニウムを製造するよりも少ないエネルギーで,99.9%の高純度のアルミニウムを製造することに成功。アルミニウムのリサイクルにおける品質低下の問題を解決すると期待されています。
2022年ー5月第2週
顔料や染料など,ものに色をつけるために使われる塗料は,さまざまな色素が含まれており,色素の中の有機物が分解されると変色したり,色があせたりしてしまいます。
しかし,今回開発された塗料は,数ナノメートルのサイズで微妙に異なる大きさのケイ素粒子からなり,粒子のサイズによって特定の光の波長を強く散乱するという性質を利用した構造色によって色を生じさせるため,半永久的に変色・退色しません。
今後,企業による粒子の製造や印刷などの実用化が進められる予定です。
「宇宙マグロ1号」は,マグロの完全養殖で有名な近畿大学を中心とした研究グループが開発・作成した超小型衛星です。大きさは1辺が10センチほどの立方体で,近畿大学の学生が自らの手で組み立てました。表面には反射特性を最適化した再帰性反射材シートを装着しており,地球から約4000km離れた宇宙空間に打ち上げた後,地上からレーザーを照射して,宇宙空間における反射材の特性を調査。将来的には調査結果をスペースデブリ(宇宙ゴミ)の回収につなげたいと考えているそうです。
「宇宙マグロ1号」は,2022年内に宇宙へ打ち上げられる予定です。
ペットボトルに使われているPET(ポリエチレンテレフタラート)は,自然界では分解されるまでに数百年かかると言われています。しかし,今回開発された酵素を使えば,1日~1週間で分解できるとのこと。
開発された「FAST-PETase(ファストペターゼ)」は,もともとPETを分解できる細菌がもっていた酵素で,より分解速度を高めるだろう突然変異を人工的に組み込んでつくられました。また,この酵素は50℃以下の温度でもはたらくことが確認されています。常温ではたらく酵素により,難分解性のプラスチックごみの引き起こすさまざまな問題に新たなアプローチができることが期待されています。
大阪市立自然史博物館で,特別展「日本の鳥の巣と卵427」が6/19まで開催中です。大阪府在住の鳥の巣コレクター・小海途銀次郎氏が約60年かけて集めた鳥の巣のコレクションをすべて展示するとともに,日本の鳥の巣と卵の多様性,日本で繁殖する鳥とその変遷についても紹介しています。
1メートルを超える巨大な巣や,土に横穴を掘るタイプの鳥の巣など,これをどうやって採取したのかというエピソードも注目です。
会期中には,YouTubeを使ったオンライン配信講座も予定されています。
月曜休館,観覧料は大人500円/高校生・大学生300円/中学生以下無料
2022年ー5月第1週
「もしも新種の生物を発見したら,どんな名前をつけよう?」
生物好きならきっと一度は夢想したことがあるでしょう。身近な場所に大発見が潜んでいるかもしれないし,過去には国立科学博物館で新種のハチのネーミングキャンペーンが行われたこともあり,ひょっとしたらあなたも新種の名づけに関わることがあるかもしれないのです。
そんな「もしも」の時にも役立つ「学名生成ツール」が公開されました。選んだ言葉を入力項目に入れ,いくつかの必要事項を選択すると,学名に使われているラテン語での表記が完成します。いろいろな言葉を入れてみて結果を比べてみると,図鑑の学名を見るときの味わいが増すでしょう。もちろん,もし学名を考えることになっても,準備はばっちりです。
元々は2020年の春,急遽学校が休校となった子供たちに向けて,全国の大学・研究機関の広報担当者有志が用意したデジタルコンテンツ集でしたが,今も新しいコンテンツが追加され続けているサイトです。
ダイナソー小林がむかわ竜を語るインタビューや,スーパーカミオカンデの紹介,アリの背中にバーコードを貼る!? 納豆菌とカビを戦わせたらどっちが勝つ? など,幅広い動画が紹介されています。
動画だけでなく,読み物やミニゲームなどのコンテンツも充実しています。雨の日が多いと予想されている今年のゴールデンウィーク,おうち時間を楽しくしてくれるこのサイトをちょっとのぞいてみませんか?
青森県立三沢航空科学館では,5/22(日)に「霧箱を作って放射線を見てみよう!」のイベントが開催されます。普段目に見えない「放射線」を,自分で組み立てた「霧箱」で目に見える形にして観察できます。
参加はHPからの申し込みで,募集期間は5/1~15,応募多数の場合は抽選となります。1日20組(各回10組×2回,1組4名様まで)限定。料金は無料です。
上越市にある上越科学館では,令和4年度の科学部部員を募集しています。活動は6月~12月の日曜日に全6回,募集定員は18人で,上越市・糸魚川市・妙高市・十日町市・柏崎市の中学校に通う中学生が対象です。上越科学館1階の実験工作室で,科学に関するさまざまな体験を予定しています。
申し込みは郵送・FAX・電子メールにて受付,5月17日(火)まで受付です。
2022年ー4月第4週
4/21日(木)の日の出前の東の空に,左から木星・金星・火星・土星が等間隔で一直線に並んでいるのが見られました(肉眼では見えませんが,海王星も木星のすぐ右側にあります)。
5つもの惑星が一直線に並んでいるということは,この線が太陽系の公転軌道面の断面に相当することになり,肉眼でそれを実感できる稀な機会です.4つの惑星がどういう位置にあれば,この順番で等間隔に並ぶのか作図してみましょう。
なお,等間隔ではなくなりますが,4つの惑星はしばらく明け方に並んで見えていますので,観察・撮影してみましょう。
2022年4月20日,福井県小浜市宇久の海岸で,巨大なイカが漂っているのが発見されました。発見されたのは,深海に生息すると言われている「ダイオウイカ」でした〔。
近隣の漁師が発見した時には,腕を海面から持ち上げるなど,弱弱しくも動いていたそうです。また,記事の動画でも,生殖器がまだ動いている様子が確認できます。
このダイオウイカは,全長3.35メートル,体重は推定60~70キログラム。残念ながらすぐに死んでしまいましたが,今後,越前松島水族館にて展示が予定されています。
人類が初めて地球以外の天体に降り立ったのは,1969年のアポロ11号の月着陸ミッション。このとき採取された月面のサンプルは,人類が採取した地球外の物体の最初の例となりました。
月には大気がないため,月面の塵は常に太陽風(太陽から噴き出すプラズマの流れ)にさらされて静電気を帯びています。採取されたサンプルを入れた袋にも月の塵は付着し,サンプル袋を納めた保護袋の内側にも入り込みました。
月の塵が付いた保護袋は展示のためにNASAから貸し出されましたが,展示館の館長によって密かに売却されてしまいます。その後も数奇な運命をたどった月の塵の一部が,2022年4月13日にオークションに出品され,約6300万円で落札されました。
ココアクッキーに白いクリームが挟まれた「オレオ」を食べるときに,2枚のクッキーを分離させると,なぜか片方のクッキーにクリームが全部くっついてしまいがちです。この謎に,アメリカの研究チームが挑みました。
2枚のクッキーを分離する時にかかる力や回転速度などを手作りの「Oreometer」で計測し,クリームの量やフレーバーの違いなど複数の観点から分析した結果,力学的な影響はほとんどなく,製造工程で先にクリームが付着する側のクッキーにクリームが残りやすいことが判明しました。この研究結果は「オレオ学(Oreology)」の論文として発表されました。
飼育している魚の扱いについて,「飼育している魚を放流しないでください」という啓発画像が環境省中国四国地方環境事務所より公開されました。
近年理解度が上がっている国外からの外来種だけでなく,国内の在来種であっても,人の手による他地域への魚の移動は望ましくないこと,放流した魚が在来種や地域個体群を滅ぼすことにもなりかねないことを,分かりやすいイラストとともに示しています。
HPでは淡水魚の放流に伴って起こった問題の事例を紹介するほか,飼育している生物の野外への放流をやめ,終生飼育を呼び掛けています。
2022年ー4月第3週
通常,遺伝子は生殖を介して親から子へ伝えられます(垂直伝播)。しかし,異なる個体間や異なる種間で遺伝子が飛び移ることがあり,このような現象を遺伝子の「水平伝播」と呼びます。遺伝子の水平伝播は進化に関わる重要な要因のひとつですが,脊椎動物などの多細胞生物ではとても珍しいと考えられてきました。
しかし今回,世界各地のカエルがヘビの遺伝子をもっていること,また特にマダガスカルではこの「遺伝子の飛び移り」が複数回起こっていることが分かり,ヘビとカエル両方を行き来する寄生虫によってこのような遺伝子の水平伝播が仲介されている可能性が示唆されました。
宿主の体内にほかの生物の遺伝子が侵入しても,それが宿主の生殖細胞の遺伝子に組み込まれなければ水平伝播は起こりません。今回見つかった寄生虫以外に,細胞内に侵入可能なウイルスや細菌が関わっている可能性があり,今後の研究で検証が予定されています。
アメリカのノースダコタ州タニスで見つかった恐竜の脚の化石が,「地球に巨大な小惑星が衝突した日に死亡し,地中に埋まったものではないか」と,話題になっています。
タニスは,恐竜絶滅を引き起こしたとされる隕石の衝突地点から約3000キロ北西に離れた場所にあります。この地で発掘された化石の中には,エラの中に隕石衝突によって飛び出した溶岩の粒が詰まっている魚や,地球外から来た可能性のある粒子が含まれた樹の樹脂など,隕石衝突の影響を生々しく残しているものがあり,問題の恐竜の脚も,隕石の衝突によって即死した可能性があるといいます。
調査結果は論文にまとめられるほか,イギリスBBC制作の番組で放映予定とのこと。今後,日本でも放映があるかもしれません。
太陽系の惑星は多くが衛星をもちます。地球の衛星・月の半径は地球の約1/4以上ですが,実はこれは太陽系の衛星としては例外的な大きさです。この大きな月の存在が,地球に生命が誕生し進化できる環境をもたらしたと考えられています。
そこで,地球以外に生命が存在する星を探すために,月のような大きな衛星をもつ惑星の条件をシミュレーションで求める研究が行われました。その結果,地球の6倍以上の質量を持つ岩石惑星と,地球の1倍以上の質量を持つ氷の惑星では,大きな衛星ができないことが分かりました。このことから,今後の地球外生命体の探査では,より小さい惑星をターゲットにすべきと研究チームは提案しています。
オーストラリアの研究者が,重量わずか1グラム,ワイヤレス,簡単には外れないが遠隔操作で着脱可能な画期的な鳥類追跡装置を開発しました。このような装置は,人間が観察するだけでは分からない動物の生態の解明に役立っています。
しかし,この画期的な装置をカササギフエガラス(スズメ目フエガラス科)に取りつけたところ,思わぬことが起こりました。なんと,自力では届かない背中に取りつけた装置を,仲間の鳥が試行錯誤の末に外してしまったのです。結局,とりつけた5台の装置は次々と外されてしまい,研究はとん挫。データが取れない代わりにカササギフエガラスの賢さと協調性が明らかになるという,予想外の結果となりました。
研究チームは,高度な社会性をもつ生物に追跡装置を付ける場合,その動物が協調性をもって装置を外す可能性も考慮したほうがいい,と論文で提案しています。
2022年ー4月第2週
名前が分からない生き物を調べようと持ち帰りSNSにアップしたら,実は天然記念物でSNSが炎上! 釣った魚を飼っていたら実は特定外来生物だった!……など,生物に関わる中で,法律を知らなかったがゆえにトラブルとなるケースが起こっています。生き物を採取したり飼育したりする行為には,「種の保存法」「外来生物法」や,「文化財保護法」「漁業法」,それに各地の条例などが関わっており,法律を知らないと思わぬトラブルに巻き込まれるリスクがあります。
この本は,そのような生き物に関わるさまざまな法律を分かりやすく解説した一冊です。科学部の顧問など,生徒とともに生き物と関わる方には特におすすめです。
『いきもの六法 日本の自然を楽しみ、守るための法律』 中島慶二監修/益子知樹監修/山と溪谷社いきもの部編 山と渓谷社 2022年3月25日発売 ¥1,980(税込) ISBN 9784635590518
トミカやプラレール,リカちゃんなどで有名なタカラトミーが,JAXAなどと共同で月面探査ロボットを開発し,その動く様子が公開されました。
今回開発された月面探査ロボットの愛称は「SORA-Q(ソラキュー)」。おもちゃ作りのアイデアが盛り込まれた,野球ボールほどの大きさの球体ロボットです。月面に着陸後は変形し,球体部分をタイヤのように使って走行して,搭載されたカメラでデータ収集を行います。得られたデータは,将来の有人月探査における移動手段にも生かされる予定です。
SORA-Qは2022年末頃打ち上げ予定の月探査船に搭載され,月に向かいます。
2022年春のスギ・ヒノキの花粉飛散は,そろそろスギ花粉が終盤を迎え,ヒノキ花粉の飛散が始まっています。花粉が多く飛び始めた3月中旬以降,空気中の花粉によって太陽の光が回折する「花粉光環」が各地で観測されています。太陽の周囲に虹色の環が幾重にも見えるこの現象は,花粉の飛散量が多いほどはっきりと見られます。
スマートフォン等でも撮影ができる鮮やかな虹色の環。花粉対策をしっかりした上で,観測してみてはいかがでしょうか。観測の際には,太陽を直視しないように十分ご注意ください。
三重県鳥羽市にある鳥羽水族館では,国内で唯一ジュゴンが飼育されています。このジュゴンを観察することで,水中でジュゴンが「あくび」をしていることが確認されました。
あくびは,ヒトを含む脊椎動物が眠い時に自然にする行動で,その動作には呼吸を伴うと定義されてきました。しかし,すでにハンドウイルカで観察されていた行動と同様に,今回観察されたジュゴンの動作は,ヒトなどのあくびとそっくりな動きですが,呼吸ができない水中で行われていました。調査を行った三重大を中心とする研究チームでは,今後,水中で生活するほかの哺乳類などで調査を進め,「あくびには呼吸を伴う必要がない」という見解の裏付けをさらに進め,あくびの起源やメカニズムなどの謎に迫ろうとしています。